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1.相続税の税務調査とは
相続税の税務調査とは、税務署が相続税の申告内容が正しいかどうかを調査しにくることです。
相続税の税務調査率は、法人税・所得税に比べてかなり高くなっています。この理由は以下の2つです。
- 相続税は法人税・所得税よりも高額であるため
- 申告内容に漏れがあるケースが多いため
国税庁の発表によると、2021年6月までの1年間に全国の国税局などが実施した相続税の実地調査(税務調査)件数が前年度より52%減の5106件となっています。新型コロナウイルス禍で緊急事態宣言が発令されるなど、対面による調査が困難だったことが減少の主な原因であるようです。
税務調査件数は減ったといっても、申告漏れ等が指摘された件数は4,475件と、9割近くの方が申告漏れ財産等の指摘を受けています。
そして申告漏れ財産等の指摘を受けた場合、1件あたりの申告漏れ課税価格は3,496万円、そして追徴税額は平均943万円と過去10年で最高となっています。(国税庁HP:「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」より)
2.税務調査はどんな流れで実施される?
① 電話による日程調整
まず、税務署から相続人の代表者に電話がかかってきて日程調整をすることから始まります。相続税申告を税理士に依頼していた場合は、税務署からその税理士宛にまず連絡があります。
そこで、調査当日に準備しておいて欲しい書類などの指示があります。
② 税務調査当日(現物確認調査)
相続税の調査場所となるのは、被相続人が生前に生活の拠点としていた自宅で行うことが原則です。
調査当日は、朝10時頃に指定の場所に税務調査官がやってきます。
始まって最初のうちは多くの質問を受けます。
「(相続人に対して)どのようなお仕事をされてますか」「奥様はお仕事をされてますか」
=所有している財産は身分相応か、実は名義預金ではないのか確認
「(被相続人の)出身地はどちらですか」「住所の移転状況を教えて下さい」
=出身地や前住所地の不動産等の有無を確認している
「故人の亡くなった原因は」
=亡くなったのは病気か事故か、入院費用、亡くなる前に引出された預金の使い道の確認
といった具合に、雑談のように思えるような質問でも調査官は相続財産に絡む情報の収集をしています。
相続税の調査では自宅内の状況も確認します。相続対象となる財産がどのような状態で保管されているかを把握します。被相続人が生前にどのように活動していたかも一緒に確認しています。
実際に調査官が自宅などに来て聞き取りや状況確認を行う期間は、財産の内容などによって早ければ半日、長ければ丸2日ぐらいかかり、それ以外に後日さらに税務署への訪問を要請されたりすることもあります。
③ 調査資料の精査期間
相続財産の現物確認が完了すると、必要な資料を調査官が税務署に持ち帰り精査を行います。
およそ2週間〜1ヶ月程度の期間、返事待ちとなることが多いです。
④ 調査結果の報告と修正申告
相続税の税務調査の結果、申告漏れと思われる事項や金額が示されます。
もしすでに行った相続税申告の内容に問題があった場合には、その事項の説明が行われるほか、修正申告を行うように求められる可能性があります。税理士が関わっている場合は、その指摘に基づいて相続人と指摘事項の認否を検討していきます。
⑤ 申告の修正
相続税の税務調査の結果、申告漏れしていた財産があれば修正申告をします。修正申告書の提出には相続人全員の了解が必要となります。申告漏れでの増額分は相続人全員が負担しなくてはなりません。
3.税務調査が入りやすいケース
では、税務調査に入られやすいのはどのようなケースでしょうか?
① 申告書に不備がある
相続税申告書の内容に計算ミスや添付書類不足などの不備があれば、税務調査が入る可能性が高くなります。
② 税理士をつけず、自分で相続税の申告をした人
相続税申告書の第1表の一番下には税理士の名前を記入する欄があるのですが、ここが空欄だと、税理士をつけずに素人が自己申告したということで、調査対象になりやすい傾向があります。
税理士がついてないことで、申告内容に不備がありそうだなと思われてしまう為です。
③ 相続税がかかるのに無申告の人
相続税がかかるのに申告していない、いわゆる無申告の人にも当然調査が入ります。
税務署は所得税の申告書などから、賃貸不動産を経営していたり、不動産があることをしっかりと把握しています。
④ 納税額が大きい
税務署は、調査対象を選定するため、「富裕層」を管理する独自のリストを持っていると言われています。
相続財産の総額が大きい場合(特に2億円以上)、ミスや見逃しのリスクが増えるので税務調査が入る確率はかなり高くなります。例えば単純な計算ミスだけでなく、不動産や有価証券、美術品や宝飾品などの評価ミス、財産の見落とし、また意図的に財産隠しをしている可能性も疑われます。
⑤ 収入が多くあったのに、相続財産が少ない場合
亡くなった方にたくさんの収入があったにもかかわらず、相続時に相続財産として申告されている金額が少ないような場合には、「もっと財産があるはずでは?」と思われる可能性が高くなります。
⑥ 金融資産を多く相続した人
相続財産に不動産が多い場合に比べ、預貯金や有価証券などの金融資産を多く相続した人の方が、調査が入りやすいものです。
理由はいくつかありますが、まず不動産は評価額の算定が複雑なため「解釈の違い」が焦点になりやすく、明確な申告漏れを指摘しにくい傾向があります。それに比べ預貯金は評価額が明確であり、また入出金の記録から名義財産の存在や過去の贈与等、申告漏れを見つけやすいのです。
⑦ 相続人の金融資産が多い
亡くなった人の配偶者や子供に多くの預貯金などがあるというような場合には、生前贈与について贈与税の申告と納付が正しく行われていたか? 名義預金(※)ではないか?という観点から税務調査が行われる可能性があります。
また相続人名義の証券口座があって、収入に見合わない残額がある場合も税務調査される可能性が高まります。名義預金の場合と同様に、実質的には被相続人のものではないかと疑われるからです。
(※)名義預金とは、他人名義の口座で自分のお金を管理することをいいます。
たとえば、故人が子どものために定期的に貯金していた口座が名義預金と見なされることがあり、そうなると隠し財産として重加算税を課される場合もあります。
4.税理士への依頼について
相続税の申告を税理士に依頼すべきかどうかは、人によって考え方が異なると思いますが、税務調査が来てしまえば税理士に払う報酬よりも高い税額を払う羽目になりかねません。税理士の関与は必須だと考えます。
相続税の申告後、税務署から調査の連絡があったタイミングについても同様で、かならず税理士に相談すべきです。正しい税額というのは法律の解釈次第で増えたり減ったりする可能性があるからです。
税法に詳しい味方は必須といえるでしょう。