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●バリュエーション(企業価値評価)が必要となる局面
非上場企業においては、上場企業のように市場株価が存在しないため、例えばM&A時や事業承継における株式譲渡時、相続による株式取得時、増資や自己株式の取得などの資本取引時、合併比率の算定等の組織再編時など、様々な局面で株価算定が必要となります。
将来の事業承継や相続税のことを見据えて自社の株価を算定してもらったり、あるいは株式を相続するにあたり税理士に自社の株価を算定してもらった経験がある方もおられるかと思いますが、この場合の株価は税務上の株価、つまり財産評価基本通達に基づいた株価であることが通常です。
これらの株価算定の目的はあくまで『課税の公平』を目的としており、M&Aをはじめとする第三者との取引価格を算出する目的ではありません。目的が異なれば結果も異なってきます。
税務上の株価とM&A時の株価は全く異なるアプローチで算定され、異なる評価結果となります。
従ってM&Aを検討されるのであれば、過去に銀行や会計事務所から算定してもらった税務上の株価は目安として用いず、別途M&Aを目的とした株価の水準を把握しておく必要があるといえます。
●バリュエーションの概要
この企業価値(株式価値)の求め方として、企業価値評価の理論(バリュエーション理論)においては、大きく次の3つの評価アプローチがあります。
- コストアプローチ(時価純資産+営業権法など)
主として評価対象企業のB/Sの財産的価値及び純資産価値に着目して価値を評価する手法 - マーケットアプローチ(マルチプル法など)
上場している同業の類似企業や過去のM&Aの類似取引事例など、類似する企業・事業・取引事例の各種財務指標と比較することによって相対的な価値を評価する手法 - インカムアプローチ(DCF法など)
評価対象企業から将来期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する手法
いずれの評価手法も一長一短であり、いずれかの手法が唯一優れているというものではありません。これらの評価手法のうち、どの手法を採用するかについては対象企業の特性等を総合的に勘案して決定していきます。
また、一定規模以上の企業の場合、複数の評価手法を用いて慎重に価値を算定していくことが通例です。
●中堅中小企業のM&Aに適している評価手法
中堅中小企業は上場企業が作成する決算書の水準(企業会計基準ベース)で作成されていることはほとんどなく、公認会計士や監査法人による厳密な財務諸表監査も通常なされていないため、決算書の正確性・信頼性は上場企業の決算書に比して低いと言えます。
会計処理の誤処理や資産の時価評価が不十分な項目が潜んでいる可能性や、粉飾や利益調整がなされている可能性もあります。
従って、中堅中小企業のM&Aにおいては実態のB/SやP/Lを明らかにしたうえで、それを企業価値(株式価値)評価に反映する手法が望まれることになります。その点において、上記の3つの評価アプローチのうちコストアプローチが基本となりますが、中でも『時価純資産+営業権法』という手法が最も用いられます。
『時価純資産+営業権法』とは時価ベースの資産と負債の差し引きで求められる時価純資産に、企業の収益力の源泉である営業権を考慮することにより、単なる清算価値あるいは再調達価値のみならず、将来の価値を加味した継続的な価値を表す方法です。
これは現実の財政状態と経営成績をバランスよく反映させることができる方法と言えます。
また、コストアプローチはその評価理論がM&Aの当事者にとって理解しやすく客観的である、ということもこのアプローチがよく用いられる理由となります。
当事務所ではケースに応じた適切な評価方法を選択し、信頼性のある企業価値を算定致します。